小説 「夜桜を見る夜に君を見る」
「みんなで夜桜を見に行こうぜ」
そんなラインが、夏也(なつや)から届いた。
楽しい事を企画したりイベント事が大好きなあいつが、ニコニコした顔でiPhoneを見ている姿が思い浮かぶ。
「いいよ」と返事をし、集合場所のコンビニに向かうために家を出た。春先の風はまだ冷たいけれど、少し心地良い。
「誰が来るの?」なんて事は聞かない。聞かなくたってわかる。
僕たち4人は、いつも一緒だから。
近所の公園は、夜桜見物に来た人々で賑わっていた。
なかなか進まない車の列を見て、「やっぱり歩きで来て正解だったね」と春嘉(はるか)が言えば「いや、でも車ほしいわーカッコいいやつ」と夏也がぼやく。
そんな会話をする二人の背を眺めながら、僕と美冬(みふゆ)は歩いていた。
「こんなに見に来る人が多いなんてびっくりだよね、秋乃里(あきのり)」
「だな。正直びっくりした」
少し歩くと、休憩スペースと、焼きそばや唐揚げの出店が見えてきた。
「俺たちちょっと出店見てくるけどどうする?」
美冬は「私はちょっと休憩したいかな」と言ってベンチに腰掛けた。
「了解ー」という言葉を残し、夏也と春嘉は出店へと向かった。
僕も美冬の隣りに腰掛けた。
「すごいね、桜。なんか迫力があって。ちょっと怖いくらいに綺麗」
「怖いくらいに綺麗って言葉はすごいな」
賑わう夜の公園の中、美冬の声は凛としていて、僕の耳にスーッと響いてくる。
「夜桜だけじゃないでしょ、秋乃里が見てるの?」
「えっ!?」
「私たち4人は小学生の頃からずーっと一緒だし。なんかわかるんだよね」
そう。
僕たち4人はずっと一緒。小学校、中学校、高校も。
いや、ずっと一緒だった。ついこの前までは。
この春からは、4人それぞれが違う大学に進学したのだ。
この春からは、違う青春ストーリーが始まります。みたいな感じ。
「ずっと4人一緒だったから切ないなー。」
美冬がポツリと言ったその言葉は、まるで桜の花びらが散るかのように儚かった。
「美冬の事が好きだ。俺と付き合って」
なんて言葉を言えるわけがない。
夏也と春嘉が戻ってきた。あんな風に二人仲良くなれたらな。
夜桜の余韻に浸りながら、帰り道を歩く。
青春映画の終わりの様だった。
春風がさっきよりも冷たいのは、少しだけ切なさが混じっているからだろうか。