ライトセーバーよりも拳、火花散らす帝国の逆襲
「悪ガキ」という言葉、今やもうあまり聞かなくなった言葉かもしれないが、俺が小学生の頃には「悪ガキ」がいた。
俺はそいつにいじめられたわけじゃけじゃないし、そいつの事が嫌いなわけでもなかった。
ボス的な存在であるそいつはクラスの男子の中でカリスマ的な存在であった。
無茶をしてはゲラゲラ笑っているそいつの事を「すげぇ」と思っていた。
すげぇと言ってゲラゲラ笑っている、俺はただの「ガキ」だった。
小学生の頃のある日。
学校が終わったら「男子みんなで戦いごっこをやろう」という話がどこからともなく流れてきた。「戦いごっこ」だったか「バトル」だったか名称は忘れたが、つまりはサバイバルゲーム的なものをやろうという事だったのだと思う。
ルールについて詳しい説明は無かった気がする。
各自武器を持って神社に集合との事。みんなエアガンを持ってくるやつらがほとんどだったが、俺はエアガンを持っていなかった。とりあえずお風呂場にあった水鉄砲をポケットに忍ばせて自転車で神社へ向かった。
戦いは始まっていた。エアガンvs水鉄砲。勝率はほぼゼロパーセント。ヤケになった俺は、その辺にあった木の枝を投げるというアマゾネスな戦闘スタイルにチェンジした。
友達がライフルのような大きいエアガンを持ってきていた。
よっしゃこれで俺のチームは圧勝と思ったが、見た目のわりに威力も速度も優しかった。シリアスな戦場に突如として訪れた緊張と緩和に、俺は笑いを堪え切れなかった。
その日、フェイスマスクまでして完全武装していたのは、悪ガキであるあいつだった。
あんなにも、怖がりながらも心臓バクバクでアドレナリンが出るような「遊び」はあの神社でのバトル・ロワイヤルだけだ。
子供ながらに、ガキながらに、遊びにはマジだった。
缶蹴りもキックベースも、やるからにはマジで楽しんでいた。
最近『観ずに死ねるか傑作青春シネマ邦画編』という本を読んだ時に、吉村智樹さんが映画「ガキ帝国」について書いた文章で、アホどもが鉄ゲタで戦う「スター・ウォーズ」という言葉があり、なんだかその文章がすごく気に入り、心にズシッと響いてきた。いい言葉だなぁと思っていた。アホどもが戦うという言葉に、ガキだった頃の唯一の「戦い」である先程のエピソードを思い浮かべてしまった。履いていたのは鉄ゲタでは無く、運動靴だったが。
映画「ガキ帝国」を、先日TSUTAYAで借り、今日さっそく見た。
物語の舞台となった「1967年の大阪」の時代の風景を知らないが、映画を見ていて「リアルだ」と思った。それはそこに登場する車や建物だったり、登場人物だったり、登場人物が話す言葉だったり、そこにあるもの全てが鮮明な輝きを放っているからだと思う。舞台となる街のリアリティに、登場人物の会話のリアルさが乗っかる。もう、目の前には1967年の大阪が完全再現されているのだ。
会話もカッコいい。正直な話、関西の言葉が強く聞き取りにくい箇所もあったけれど、あまりにも洗練されているより、むしろノイズがある会話の方が、よりリアルで生々しく心地よかった。
ケガをした女の子を病院に送ってくると仲間が言うと、周りの敵に「ほな俺らはこいつらを病院に送ったろか?」と言ったりと、とにかく会話とアクションの切れ味が鋭く、ひりりと刺さる。
リュウのキャラクターがとにかくカッコいい。
そしてアクションの怖さ。
「うわ、これは痛い」と思わず顔を歪めてしまうくらいに、ケンカのシーンなどは痛い。でもこの「痛み」はきっとリアルなんだろうなと思う。
俺の神社での戦いなんて、ちっぽけに思えてくるくらいに「ガキ帝国」の中のバトルはマジだし、怖いし、脅威だ。
笑いとリアルとシリアスが入り混じる、ジャリジャリとした質感、物語の厚みがハンパじゃなかった。
カッコよくて胸に突き刺さる映画だ。
また、好きな映画が一つ増えた。
嬉しいです。