真夜中を照らす園子温
東京ではなく、TOKYO。
TOKYOに迷いこんだ観客を案内するかの様に、染谷将太のラップが始まって、徐々に物語も始まっていく。
ラップが生み出す言葉のうねりに乗って、物語も動き出す。
前作「地獄でなぜ悪い」とはまた違う味わいのエンターテイメントというか。
原作漫画の園子温リミックスともいうべき雰囲気。
俺は昔原作の漫画を読んだことがあるのだが、原作を忠実に再現というよりは、原作のエピソードやキャラクターを抽出し、園子温流に新たに物語を構築していった感覚がある。
園子温の「TOKYO TRIBE」なのだ。
東京に詳しくない俺が言うのも変かもしれないが、物語の舞台となる場所は実際にある東京の街ではなく、物語の中に映し出される街並みは、どこか異国感と近未来都市感をミックスした様な独自のデザインをしている。まるでTOKYO TRIBEというテーマパークに足を踏み入れたみたいな感覚がした。
特に後半に出てくる歌舞伎町を戦車が疾走するシーンのワクワク感はハンパじゃなかった。
個性的なのは、街並みだけではない。
やはり登場人物、キャラクターたちが何と言っても個性的であり、パワフルでカラフル。このTOKYO TRIBEという映画を独自のカラーで染めている。
ファミレスの店員役の市川由衣さんの可愛さたるやもう、最高。
そしてやっぱり、窪塚洋介。
窪塚洋介の切れ味。
何をしでかすかわからないような、切れすぎるナイフみたいな、それでいて無垢な狂気を内包しているかの様なあの窪塚洋介さんの演技がやっぱりカッコよくて仕方がないのだ。
舞台となる街並みも登場するキャラクターも全てが個性的なカラーでペイントされた物語は、一見するとストーリーが破綻しかねないような危ういパワーバランスだが、そんなバランス感覚をねじ伏せるかの様な、有無を言わせぬ圧倒的な迫力で突き進む「強さ」がある。
園子温監督の映画はいつも、観る側を物語の世界へと引き込む力強さがハンパじゃないなと感じる。
日本刀を振り回すメラ。
スンミの軽やかなアクションとパンチラ。
金ピカな拳銃と鮮血。
ブッパの存在感。
登場する女性キャラクターの色気の濃厚さ、あんなギャルの集団、最高だっての。
どれをとってもやり過ぎだけれど最高にカッコいいし、心にガツンとくる。
カッコよさとスピード感と切れ味と狂気とセクシーさと、物語に凝縮された「ドキドキさせる要素」と登場人物が繰り出すラップが生み出す言葉のビート。言葉のビートはまるで物語の鼓動が脈打つみたいだ。この物語は生きている。
現実離れしたエンターテイメントの物語の中で登場人物たちはリアルな呼吸をしている言葉のビートで。
見たこともない聴いたこともない、唯一無二の作品を、また一つ園子温はこの世に生み出した。
ドラ泣きもアナ雪も知らねぇな
やはり俺には園子温しかいねぇな
そんなラップ調のツイートをしてしまうくらいに、今回の作品には衝撃を受けてしまった。
レイトショーを終えた映画館をあとにして俺は夜の町を歩いていた。
まるで、TOKYO TRIBEの染谷将太みたいな気分で。