心が爆ぜた
スポーツ選手にも宇宙飛行士にもF1レーサーにも憧れなかった、そんな俺が唯一憧れたのが「漫才師」だった。
「M-1グランプリ」という漫才の大会がテレビで放送され、青春時代の俺はもう夢中だった。
漫才と漫才師がとにかくカッコよかった。
古くからある「ことわざ」を現代風にアレンジする、そんな内容のコーナーに出演した時、センスがズバ抜けて光っていて面白かったのが、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹だった。
読書家な部分にもシンパシーを感じ、ブログも愛読していた。
『文學界』という雑誌に又吉直樹が書いた「火花」という中篇小説が載っている。そんなニュースを知り、発売日翌日ぐらいに本屋で見かけ、パラパラと立ち読みしたらあまりにも面白かったので「これは後日買って何度も読みたい」と思い俺は立ち読みするのをやめた。
しかし後日、本屋に三軒程行ってみたがどこも売り切れだったので仕方なくAmazonで購入したのだ。
「火花」という物語の主人公は漫才師だ。
俺が立ち読みをやめるキッカケともなった、冒頭の花火大会の会場で漫才をやるシーンからしてもう最高だ。お笑い芸人スパークスの「徳永」は昔から漫才師に憧れていた漫才好きな男、そんな徳永と出会うのが個性的かつ破天荒な天才芸人あほんだら の「神谷」と出会う。先輩の神谷と後輩の徳永、お笑い界を巡る物語の中で、笑いと漫才に明け暮れる二人の日々が描かれていく。笑いながらも、文章の所々に「グッと刺さる言葉」があり、心揺さぶられながら「火花」という物語を堪能した。
楽しくて面白かった日々が徐々に変化していく徳永と神谷、それぞれを取り巻く環境も変化していく。
変わらない日常の様に思えながらも、細やかなグラデーションの様に、日々は色合いを変えていく。
そんな生活や日常の場面も細やかに描かれていて、俺はすごく好きだった。
笑えるけれどどこか切ない。
切ないけれどやっぱり笑えてしまう。
この「火花」という物語を、きっとこれから何度も読み返すと思う。
夢と憧れに突き動かされながら生きる二人の言葉は、きっと心に温かな火を灯すと思う。まさに「火花」の如くバチバチと感情が爆ぜる物語だ。