銀杏BOYZの新曲「生きたい」を聴いた。
曲を再生した瞬間に、美しいピアノの旋律が聴こえてきた。
春、新生活や新学期が始まったばかりのこのタイミングで、ロックバンド銀杏BOYZの新曲「生きたい」が世間に解き放たれた。
2014年に「9年間」という長すぎる沈黙を破り銀杏BOYZはアルバムを二枚リリースした。
アルバム発売日直前、偶然立ち寄ったTSUTAYAの店内で、銀杏BOYZのニューアルバムの店頭ポップを見つけた瞬間に「銀杏BOYZの新しいアルバム、本当に出るんだ」と嬉しさがこみ上げてきて、思わず店を飛び出し涙をこらえたのを覚えている。ふと顔を上げた先に見えたセブンイレブンの看板がぼんやりとにじんでいたから、こらえきれずに泣いていたのかもしれない。
聴いていた曲は銀杏BOYZの「BABY BABY」だった。
衝撃だった。「どうして銀杏BOYZの曲なんだ?」と思った。
月9ドラマという超POPな媒体を通じて銀杏BOYZの曲がお茶の間へと浸透した。
ドラマ「恋仲」に夢中になっている青春真っ盛りの少年少女が銀杏BOYZの「BABY BABY」を知ってしまったのだ。
皮肉にもきっとその少年少女たちは銀杏BOYZの1stアルバム「SKOOL KILL」の歌詞の中に出てくる「休み時間に君にちょっかいをかけるサッカー部のあの野郎」と重なるような青春を満喫している少年少女たちなのではないだろうか。
ここで大きなポイントとなるのは「BABY BABY」以外の銀杏BOYZの曲を聴いたかどうかである。
銀杏BOYZの名曲は「BABY BABY」だけでない。
「ベイベー」とイヤホンの中で峯田和伸が叫んだ。
しかしその後に「BABY BABY」とは続かない、当たり前だ、今、俺が聴いている曲は「BABY BABY」ではなく「生きたい」という曲である。
正直に言う、聴きやすい曲でも歌いやすい曲でも歌って盛り上がる曲でも友達にオススメしやすい曲でも無い、銀杏BOYZは音楽シーンの中で独自のカリスマ性と圧倒的な存在感を放ち続け、ヒットチャートから遠く離れた位置でガラパゴス化してしまった。しかしその禍々しく剥き出しの狂気、血液が沸騰しているかのように濃いエネルギーの塊は輝きをやめない。
銀杏BOYZの曲の魅力はなんだろう。
高校生の頃、銀杏BOYZを聴く事で納得いかない気持ちや嫌な気持ちを忘れる事が出来た。冴えない青春時代の闇を切り裂いてくれたのは間違いなく銀杏BOYZの曲だ。そんな思春期のマストアイテムだった銀杏BOYZのアルバム「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」「DOOR」そして銀杏BOYZが次のアルバム「光の中に立っていてね」を発売した頃にはもうすっかり大人になっていた。
1stアルバム時代の、思春期のやるせなさやフラストレーションをひたすら爆音と轟音にぶつけたような振り切れたテンション、正直怖さすらもあったそのテンションの影も形もなかった。
綺麗な銀杏BOYZ。
もう闇とは決別したかのように。
ノイジーだけれどけたたましさの中に温もりと光があった。
感情を闇で塗りつぶし続けてきた銀杏BOYZが眩い閃光を聴き手に翳した。
気がつけば「ぽあだむ」という曲を何度も聴いていた。
そんなアルバムを経て、リリースされた銀杏BOYZのニューシングル「生きたい」はタイトルそのままの直球。
峯田和伸の歌声がシンプルに突き刺さってくる曲。
音楽シーンの流行も様々な音楽評も全部がバカバカしくなるくらいに圧倒的に銀杏BOYZは強くて優しい。