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FamilyMartってTommy heavenlyとちょっと文字の雰囲気が似てる気がするBlog

何気ない日常、音楽や映画や小説やテレビなどの感想。

復讐するは森田剛にあり 映画「ヒメアノ〜ル」感想

「笑いの時代は終わりました...これより、不道徳の時間を始めます。」

行け!稲中卓球部』というギャグ漫画で一世を風靡した古谷実

その後、彼が描いた作品『ヒミズ』の単行本の帯には、そんな言葉が並んでいた。

思春期特有の下ネタを織り交ぜつつも、エッジのあるギャグを連発する漫画を描いていた漫画家が放つ言葉としては、
「笑いの時代は終わりました」という言葉はあまりにも重く、ズシリと響く。

「どうせ稲中の作者だし、ギャグあるでしょー?」とニヤけつつ、なに食わぬ顔で『ヒミズ』を読むと、戦慄が走る。

稲中』がくだらないギャグをマシンガンのように乱れ撃ちするならば、『ヒミズ』は撃たない。
稲中稲中!」と騒ぐ読者に向かってゆっくりと銃口を突きつけてくるような、冷たさと恐怖がある。
二つの作品の主人公は、どちらも同じ中学生なのに、取り巻く環境も物語の色合いも全てが違う。
「笑い」を極力削ぎ落とし、シリアスな雰囲気やサスペンスな要素を浮き彫りにしたのが『ヒミズ』だと思う。
「何やってんだよ、バカー」とけらけら笑えるのが『稲中』で『ヒミズ』は「何やってんだよ、バカ!」と青ざめてしまう。

中学生や高校生の頃に『稲中』を立ち読みし、その絶妙なギャグセンスに笑っていた俺は、何気なく『ヒミズ』を読んで衝撃を受けた。
大人になってから『シガテラ』を読み、その日常の転覆っぷりと物語にまとわりつくような拭いきれない狂気にまたも衝撃を受けた。
ヒミズ』に比べると、やや冷酷さやシリアスさは薄れていて、比較的読み易いかもしれないが、物語の隅々に「怖さ」は残っている。

ある日、古谷実の新しい作品が本屋に並んでいた。
その『ヒメアノ〜ル』という不思議なタイトルに惹かれた。
タイトルと表紙の絵だけではどんな作品か全くわからないまま、単行本をパラパラと立ち読みした。
物語から立ち込める、今だに薄まらないその狂気は、古谷実による「不道徳の時間」はまだ続いていると俺に感じさせるには充分だった。

ヒメアノ〜ル』映画化のニュースを知った時は驚いた。
物語の重要キャラ「森田」を演じるのは同じ名字である森田剛
ジャニーズの熱烈なファンではないが、V6については、小学生の頃にV6が出ているバラエティ番組「学校へ行こう!」が大流行していたので、テレビでよく見ていたという理由で思い入れがある。

森田に限らず、この映画のキャラクターはヒロインを除いて名字で呼ばれる事がほとんどだ。
記号的ともいえるその雰囲気が、舞台となるどこか無機質な何気ない日常をより際立たせる。

カフェで働く美女に一目惚れした冴えない男「安藤」彼の行動に、同じ職場で清掃業をしている平凡な青年「岡田」が巻き込まれていく。
物語のこの部分だけをチョイスすればラブコメのようにも思えてくる。

ちなみに美女こと「ユカ」を佐津川愛美、「安藤」をムロツヨシ、「岡田」を濱田岳が演じている。
それぞれが絶妙な配役だと思う。
特にムロツヨシのコミカルかつ狂気を匂わせるような絶妙なバランスが良かった。

ユカを執拗に見ているカフェの常連客の森田、森田が高校の同級生だと気付く岡田、森田を危険人物だと怪しむ安藤、そんな安藤が岡田に森田を何者かどうか突き止めるように頼み、ユカがある事を岡田に打ち明ける、そしてゆっくりと物語の歯車が動き始める。

公園でのタバコを注意されるシーンや、居酒屋とカフェで岡田と話すシーン、そこに漂う「あれ?この森田ってやつ、変じゃないか?」そんな違和感が、劇中で森田が無気力に吸うタバコの煙の如く、観る者の心の中に広がっていく。

だが、特に何も起こらずに「安藤」「ユカ」「岡田」3人が主軸となるラブコメのような物語が進行していく。
途中で陰惨な森田の過去話がインサートされるが、3人の物語には直接関わらない。
そのまま物語は進行していく、岡田、安藤、ユカ、ユカの友達の4人が、居酒屋で2対2の飲み会をしているシーンに笑ったりしている内に、すっかり森田のことなど忘れそうになる、その忘れそうな瞬間、一番ゾッとするタイミングで森田剛が暗がりから登場する、高鳴る音楽、タイトルバック。
このタイトルバックのタイミングが最高でもう本当に怖かった。

それは『ヒメアノ〜ル』の原作者である古谷実の、人気ギャグ漫画のその後に発売された単行本の帯に「笑いの時代は終わりました」という言葉が並んでいた恐怖に似ていると思う。

「笑いの時代は終わったんだ」と告げるかのようにタイトルが出て、物語は軋み始める。

学生時代、いじめっ子に復讐した瞬間から森田の人生は大きく変わっていく。
不道徳の時間を体現したかのように、殺人を繰り返していく。
正直その殺人描写もさることながら「いじめ」の描写もかなりエグみがあり、殴る蹴る無視するとはまた違う、心を逆撫でするような悪趣味さが際立っていると思う。

エグいといえば、パチンコ屋から出てきたチンピラらしき二人に絡まれ、あっさり「と見せかけてキック」と森田が蹴られるシーンもエグいというか「うわ、嫌だな」という嫌悪感がこみ上げてくる。
その後、あの二人が殺されたかどうかいまいちわからないのも怖い。
シーンが変わり、痛そうに腕を押さえ、けだるそうに歩く森田を見て「え!?もしかして負けた??」と思ってしまった。

何を考えているかわからない、無気力な殺人鬼役を演じる森田剛がとにかく印象的だった、復讐者の役を演じさせたら、今後はもう彼の右に出るものはいないのではないだろうかと思うくらいに。

いくら清掃しても落ちない汚れのように、街に一滴落とされたオイルのように、森田の狂気は映画全体に染み渡っている。

サスペンスでもありホラーでもある、目を背けたくなるような暴力と狂気、それは時折顔を覗かせるギャグすらも覆ってしまうくらいだ。

ヒメアノ〜ル」青春時代に闇を刻まれた青年の復讐記、自分が住む町にも森田のような狂気が何食わぬ顔で佇んでいるんじゃないかと思わせてしまう、そんな恐怖すらも感じさせた。

作品のキャラクターだけでなく、『ヒミズ』以降の古谷実漫画の根底にある「狂気」や「恐怖」をも立体的に描いているこの作品こそ「実写化成功例」なのではないだろうかと思った。