狂犬は吠えるがめちゃイケは進む
「当たり前じゃねぇからなこの状況!」
仕事から帰ってきたばかりの疲れた身体に、リビングのテレビの画面から聞こえてきた加藤浩次の叫びが反響するようだった。
「あ、そうか今日のめちゃイケは」と思い途中から見始める。
「10年前に芸能界から消えた加藤浩次の元相方は今」「極楽とんぼ10年ぶりの共演」そんなテロップが画面上に並んでいる。めちゃイケで極楽とんぼの山本が復活する事は知っていたが、知っていたけれどもやはり目の当たりにすると、信じられなかった。
「これ逃したらもうなんにもねぇんだよ俺ら!」
山本が何故テレビに出る事が出来なかったか、何をしたのか、不祥事についてはこのネット社会調べるのには容易いだろう。当時ニュースで報道された時はショックを隠せなかった。
おそらく中学生の頃だろう。初めて「めちゃイケ」を観てそのあまりの面白さに打ちのめされ、毎週毎週土曜日が楽しみになっていった。
PTAが物議を醸したコーナー「しりとり侍」内での「プリソ」の一言だけで心底笑った、「ハイドロプレーニング現象」という言葉はきっと「数取団」を観ていなければ一生知ることはなかっただろう。「山奥」「スモウライダー」あの頃のめちゃイケには、俺がテレビの前でゲラゲラ笑っていためちゃイケには、まだ山本がいた、極楽とんぼがいた。
今まで観ためちゃイケの中で一番笑ったのはやっぱり加藤浩次。「フジテレビ警察24時」のコーナーで、突如テレビ局内に出現したダースベーダー、ダースベーダーが持つライトセーバーを奪い、そのライトセーバーを膝折りした加藤浩次だった。心底笑った。
10年ぶりの共演のスタジオには、山本を慕う山本軍団も集まっていた。その芸人たちの中にロンドンブーツ1号2号の田村淳がいた。歯に衣着せぬ痛快な本音トークがトレードマークの田村淳が泣いていた。
その後、極楽とんぼは謝罪し、徐々にいつもの「めちゃイケ」の雰囲気に戻りつつあった、そのタイミングで極楽とんぼの真骨頂「ケンカコント」が始まる。セットにぶつかり倒れる山本。10年ぶりのケンカコント、そこにエレファントカシマシの宮本の歌声がかぶさる。「さぁ頑張ろうぜ」と。
「お前のことな、いくら蹴っても苦情なんてこないんだよ!」
加藤浩次が渾身の一言を叫ぶ。
極楽とんぼとは唯一無二の二人組だったのだ。
彼らのケンカはどこかチープで漫画的だ、だからこそ笑えてしまうのだ。
「お前の輝きはいつだって俺の宝物」とエレファントカシマシ宮本が歌う。
山本の面白さが輝くからこそ狂犬加藤浩次の咆哮が際立つ。
二人の芸人の吠え魂が日本中に響き渡った夜だった。
山本が起こした不祥事を擁護・肯定するつもりは微塵も無い。
ただ俺は言いたいだけ「極楽とんぼは面白い」と言いたいだけだ。