ツチヤタカユキ『笑いのカイブツ』を読んだ。
深夜ラジオで自分が投稿したネタが初めて読まれた瞬間を今でも鮮明に覚えている。
「朝井リョウ 加藤千恵のオールナイトニッポンZERO」の「国境の長いトンネルを抜けると・・・・・・」というコーナーだ。
小説の書き出しの1文を考えるというこのコーナーで自分が考えたネタが読まれたのだ。カトチエが自分のラジオネームを読んでくれただけでも感激なのにその後のトークで「映像があっという間に浮かんだよね」「これすぐ短編書けるよね」「かけるかける」とお二方が話していてさらに感激だった。
嬉しすぎて自分の部屋に戻る時にかなり駆け足で階段を登ったくらいだ。『桐島、部活やめるってよ』『もう一度生まれる』『何者』を読んでいたくらいに好きな小説家に自分の考えたネタが届いたのだ、嬉しくないわけがない。
失恋したショックで一時的に音楽を聴く事が苦痛になり、音楽以外のものをと思いふと再生した『ナインティナインのオールナイトニッ本』の付録CDがキッカケで深夜ラジオにどハマりしていった。
初回放送「オッケーい!」という若かりし岡村隆史のがなりが新鮮だった、俺の知らないナインティナインがそこにいた。
これがキッカケになり、深夜ラジオを片っ端から聴き漁る日々、そんなある日「アルコ&ピースのオールナイトニッポンZERO」と出会う。
本編もさることながら、名物ネタコーナーの「家族」と「アルコ&ピースの一週間」のクオリティが高すぎて太刀打ち出来ないと愕然とした。
自分が考えたネタは「セックス・ピストルズのCDを見つけてこれはエロくありませんと説教する武田鉄矢」みたいなやつだった当然採用されず。ハガキ職人のレベルの高さを噛み締めた。
様々な深夜ラジオにハマっていくと同時にハガキ職人さんの名前も覚えていくようになる。
ファイヤーダンス失敗、トゥルーマン翔、美しすぎる受付嬢、鳥獣戯画ジャクソン、ガイルガーゴイルなどなど。深夜ラジオを知らない人からすれば「?」となるような名前だが深夜ラジオリスナーからすればスーパースターがズラリと並んでいるような雰囲気である。
オードリーのオールナイトニッポンの過去放送を聴いている時に「ツチヤタカユキ」という名前を知った。
採用率の高さと面白さに驚愕し「オードリーの若林さんに注目されているだなんてうらやましい」と思っていた。
ツチヤタカユキの小説『笑いのカイブツ』を読んでからは呑気に「すごいなーうらやましいなー」とだけ思っていた自分が恥ずかしくなってしまった。
本の帯にもあるように「青春私小説」であるこの作品はツチヤタカユキの青春時代を描いた作品だ。
お笑いが好きな著者が高校一年の時に「ケータイ大喜利」という番組で「レジェンド」になると決意したところから物語は始まっていく。
全てを犠牲にしてまで「お笑い」にのめり込み「面白いボケ」を考え続ける著者の描写には圧倒された。
「お笑いしかない」という覚悟の熱力と気迫が込められた渾身の文章、第一章の「ケータイ大喜利レジェンドになるか死ぬか」というタイトルからもハンパじゃない覚悟が伝わってくるだろう。
「お笑い」だけに全身全霊をかけて生きる著者と現実生活との軋轢や苦悩、特に恋愛について書かれた第3章は読んでいて泣きそうになった。そこに綴られた活字は巷にあふれるどんなラブソングよりも強烈で強靭な愛を掻き鳴らし歌っていた。
第2章でカラオケに行くエピソードがあり著者は6曲だけで歌える歌が尽きたと書いているのだが、その曲としてブルーハーツの「青空」BLANKEY JET CITYの「SWEET DAYS」フジファブリックの「若者のすべて」GOING STEADYの「BABY BABY」毛皮のマリーズの「ビューティフル」ビートたけしの「浅草キッド」を挙げている。もう、なんだろうか、絶妙な選曲に嬉しくなってしまった。BLANKEYJETCITYもフジファブリックも毛皮のマリーズも大好きなので。
全てを読み終えた瞬間、お笑いに全てを捧げながら青春時代を駆け抜けてきた著者の生き様に心打たれた。
フジファブリックの「若者のすべて」が聴きたくなり、何度も聴いた。
活字だから聞こえないはずなのに、ツチヤタカユキの心の叫び声が聞こえてくるような気がした。
その声はきっと、「お笑い」が好きな人そうでない人両方の琴線と涙腺に響くと思う。