不思議なお家
たしかあれは小学校低学年の頃の話だったと思う。
近所に「お屋敷」と呼ぶにはちょっと大袈裟かもしれないけど、すごくオシャレで洋風な佇まいの家が一軒建っていた。
「ちょっとシルバニアファミリーに出てきそうな雰囲気だなぁ」そんな風に思った記憶がぼんやりとある。
近くの公園で遊んでいたりすると、その家が見える。
幼少の頃「あんなステキでカッコいい家にはどんな人が住んでいるのだろうか?」と思ったりもした。何となくその家のことは気になっていた。
気になっていた理由は、もう一つある。
人が住んでいる気配がしないのだ。
何となくだけど、その家はシーンとしているというか、空き家っぽいなという雰囲気が外観からにじみ出ている感じはあった。
もちろん家の中を見たわけではないので、完全に憶測なのだが「誰もいない空き家」感がどことなく漂っていた。
でもじゃあ、ステキな駐車スペースに停まっているあの車には、誰が乗るんだろうか?
謎めいた不思議な気持ちになった。
ある日のことだ。
近所の友達とその家の前を通りがかると、誰かが遊びにきている姿を目撃したのだ。
衝撃的だった。
ずーっと空き家だと思っていたから。まぁ幼き自分が勝手にそう思い込んでいただけで、実際は普通に誰かが暮らしていたのかもしれないが、けれどもとにかく驚いた。
昔のことなのでよく覚えていないが、その人たちは「家族みんなで親戚の家に遊びにきた」みたいな雰囲気だったと思う。
その人たちの中に、一人の女の子が混ざっていた。
多分自分たちと、年齢もそんなに変わらないようなそんな少女だ。
その女の子が喋りかけてきた。
「君たちはこの辺に住んでるの?」みたいな事を聞かれたのをきっかけに、自分と友達は、その女の子と少し喋った。
会話の内容はすべて忘れてしまったが、ただ一つだけ、うっすら覚えている事がある。
その女の子が、持っているお菓子を僕と友達に分けてくれたのだ。
その時、僕は自分がもらったお菓子が、ちょっと多いような気がして、「なんで僕にだけ多くくれたの?」と尋ねると、女の子はこう答えた。
「だって、君カッコいいから」
これでもかというくらいに、その一言は幼い僕の心をにぎりつぶし、胸が「キュン」と鳴る、澄んだ音色が頭の中に響いた。
その言葉にどう返事したかは、全く覚えていない。
恥ずかしくて胸のドキドキがとまらなかったような気がする。
転校がきっかけで町を離れるまで過ごした何年間、あの家に誰かが来ているのを目撃したのはこの日だけだ。
もちろん、その女の子と会ったのもこの日だけだった。
その女の子の顔はもうとっくの昔に忘れてしまったし、「実は高校生の頃にその女の子と劇的に再会して・・・」みたいなドラマも無い。
しかし何故だかこのエピソードだけがぼんやりと残っているのだ。
なんだかおとぎ話のような謎めいたエピソードだ。